田舎の呪縛から解放された年末年始
「おめさんが帰省しないせいで、正月はいつも〇〇伯父さん(本家当主)に嫌味言われるわ。せっかく一族勢ぞろいなのに、いつもお前達だけ居ないから。たまには正月に帰ってきたらどうなの、交通費出してやるから」
年末になると、毎年のように母からこんな事を電話やメールで言われる。
結婚して地元を離れて9年、年末年始に実家や地元に帰省した事はない。
夫実家への年末年始帰省は、義父母が「道も混むし大変だから、時期をずらしてゆっくりおいで」と言ってくれているので、言葉に甘える形で年始の挨拶には行っていない。(電話で挨拶はする)
私の実家への年末年始帰省は、結婚したその年も、実家から30分の所に住んでいたが帰省せず、友人たちとゲーセンで年越しを過ごしていた。
関東に住んでからも同じく。そして今、西日本に住んでいるゆえに距離を理由に帰っていない。
私の実家への年末年始帰省拒否は、言わずもがな「田舎の慣習からの逃亡」である。
幼い頃、大みそかは父方本家に昼過ぎから出向き、泊り込みで宴会をするのが親族一同の恒例行事だった。
私は子供のころからこれがたまらなく嫌だった。
女というだけで給仕を言いつけられ、いとこ達と遊んでいる最中も祖母やおば達が「女の子は台所に来なさい」と呼びつけて宴会の準備やおせちの仕込みをやらせてきた。女児だけに。
「おせちをしっかり作れなきゃ、嫁に行った先で恥をかくのはお前達だで」
なので、料理は今でも苦手だが、おせち料理は一通り作り方が分かる。
宴会が始まっても、当主である祖母の乾杯の一声が終わる時は着座を許されるが、始まったらお酌回りや給仕をやらされる。これも女だけ。
だから母を始めとした嫁たちの席は一番下座、私たち娘たちの席もその近く。
弟たち男の孫たちは一切何も言いつけられず、寿司やオードブルに難なくありつける。
酌回りの時も、「大きくなったなあ」と言われながらよく知らん親戚のおじさんに尻を撫でられたり胸を触られた事は何度あっただろう。膝の上に座らされて、嫌がっているのに頬に酒臭いキスをされたり。
これが大みそかと正月に連続で行われるのだ。毎年。
宴会が終わると今度こそ遊べると思うのだがこれも無残に打ち砕かれる。遊んでいようものなら祖母から新聞を丸めたもので背中をひっぱたかれ「何遊んでるんだ、女達は片付けがあるだで!」と怒られる。
片付けが終わる頃、酔っぱらった親戚のおっさん達は奥さん達に引きずられながら家に帰る。
泊っていく人達は風呂の準備をする。
そんな時も、「なあ、おじさんと一緒に風呂入るか?ん?」と酔っ払いが絡んでくる。
本当にこれが嫌で嫌でたまらなかった。気持ち悪かった。
おじさん達が入った湯舟に入りたくなかったので、一度お湯を入れ替えてもらった後、女の従姉妹たちと身を寄せ合うように風呂に入っていると、わざとらしくその隣のトイレにひっきりなしにおじさんたちが「ションベンしに来ただけだよー見てないよー」とやってきた。これも毎年。
布団をしいて、女の子達だけで離れで寝ようとしていると、まだ酔っている親戚のおっさん達が「怖い話してやろうか」「お小遣いやろうか」と入り込もうとするから、「おかーさーん!助けてー!」と近所中に聞こえる声で何度か叫んだ。実際に部屋に入られたことはない。
寝ている間に入られるのが嫌だから、ドアの前にありったけの荷物や本を積んで入れないようにした。
今思い出しても気持ち悪くなってきた。
こんな年末年始を、物心ついた頃から中学生までやっていた。
さすがに本家の風呂に入ったり泊まるのも嫌だったので、宴会自体に行くのを拒否していたが、お前が来ないとじいちゃんばあちゃんに何言われるかわからないから一緒に来なさい!と母に文字通り引きずられながら連行されていた。
(母は祖母にとてもいびられていたので、嫌味を言われる要素を一つでも作りたくなかったんだと思う)
でも、今思い返すと、「娘が親族の男たちにセクハラを受けている環境」に平気で年頃の娘を連れていく、信じがたい神経だったんだろうな。田舎だから、そういう家だからしょうがない。女の子だから多少セクハラされても我慢しなさい、って平気で言う人たちだったから。
母だけじゃない。祖母も、おば達もそうだ。
「そういう家だし、田舎だし、女というのはそういうものだから」
だから、私の中で長いこと「正月は女にとって地獄」という汚い油がねっとりとこびりついていた。
ちなみに母方親族の宴会でも、セクハラは無くとも女の子だけが台所に呼ばれて給仕や酌回り、片付けをやらされていた。その間男の子達はゲームとか色々好き勝手遊べていた。
お年玉を貰える貴重な機会であっても、宴会は私たち女孫にとっては全然楽しみなものじゃなかった。おいしい料理をあったかいうちに食べられないし、注がれたジュースは冷たいうちに飲み干せない。
そういう環境が当たり前だと育った女達は、段々二手に分かれ始める。
「田舎だし、祖父母や親戚達と年末年始を過ごすのは当たり前。女が台所仕事やるのは嫌だけど仕方ない。そういう慣習だし、地元に嫁いだから仕方ない」
と諦めの境地に入った従姉妹達や、同じ地域の友人たちも多い。
そして一方、私のように「そんな年末年始を過ごすぐらいなら帰省せんわ」と背を向ける人間もいる。
私は結婚してから9年、年末年始ってこんなに楽だったっけ?と毎年毎年拍子抜けしている。
去年からおせち料理も手作りをやめて外注にした。
もう必死こいてサツマイモをつぶしたり、煮物作ったり、大根と人参を刻んだり、黒豆を煮たりしなくていいのだ。めちゃくちゃ高くなるカズノコやかまぼこを買わなくてもいいのだ。
幸い、夫が「実家に帰省しなくてもいいし、金はかかるがおせちは頼んで楽しよう」というタイプだったので、懐は痛いがここ数年は楽させてもらっている。今年はうっかり旅行しちゃったぜ。
うどんを食べに来た pic.twitter.com/4pbri0JB2V
— 煮くずれ (@nimono_kuzureta) 2018年12月29日
今年一年家族全員お疲れ様!うめえ! pic.twitter.com/PTkEKedI77
— 煮くずれ (@nimono_kuzureta) 2018年12月29日
ちなみに冒頭の「年末年始に一族が揃わず、現当主のおじが文句を言っている」件ですが、従姉に確認したところ「文句なんか言ってねえ、遠いから来られないのは仕方ない」と言っているとのこと。
つまり母のでっち上げ。
年末年始に家族が揃い、娘にあれこれ準備させなければという変な呪縛に今もとらわれている、60を過ぎたおばさんの妄言。
弟嫁さんに気を使ってあれこれ言いつけ出来ないから、結局娘である私をこき使いたいだけなんだろうな。一体母は何と戦っているのか。あ、旧い慣習か。
再来年関東に再び戻るけれど、よほどでなければ年末年始に戻ることはないだろう。
何が悲しゅうて貴重な休日を、渋滞のメッカを数か所通り抜けて7時間近くかけてクソ実家に帰るために費やさなければならないのか。
私の家族は夫と息子なので、家族でゆっくり過ごすとするよ。
年末年始、帰省されている方もそうでない方も、実家や義実家にどす黒いものを抱えている方もそうでない方も、心穏やかに過ごせる時間がありますように。
とりあえず嫁をこき使ったり孫娘を親族のセクハラ要員に使うような奴らは全員平成の終わりと共にふっとべばいいと思う。
老若男女問わず、何事も楽しい気持ちで迎えたいものじゃないですか。
てか年末年始や盆やGWに無理やり帰省させる「長期休みは家族で過ごすもの」教の押しつけはよくないよな。
誰かに我慢を強いるような家族団欒ごっこは要らんよなあ。
ではよいお年を!